偏見: 緑内障と点眼2012/02/11 17:36

死ぬほど多種類の緑内障の点眼が出ている。最近は「コンプライアンス」が重視されている。「処方しても患者が使わなきゃ無意味」ということです。
相互に効果の有意差もあったりする。作用メカニズムがちがえば併用可能だが、あまりたくさん出したって、コンプライアンスは落ちるばかりだ。在庫の問題も考えたら、効果の低いものをあれこれちまちま組み合わせるのも馬鹿らしい。一方で、費用の問題もある。

ピロカルピンしかむかしはなかったが、その後長くβブロッカの時代が続いた。いまではプロスタグランディン花盛りである。
以下、商品名を出すこともあるが金はもらってない(笑

緑内障は高眼圧で神経障害発症のリスクが上がるが、低眼圧でもおこる。だが、治療法は、眼圧がどうであれさらにそれを下げる、しかない。
余談だが神経保護だのいってる向きもある。可能性は否定しないが、軸索輸送が解析できなきゃ本当の仕事ははじまらないし、細胞死を解析するにしても「実際には不可能な濃度の薬物に細胞を浸したらそれっぽい現象が見えた」になるだろうと思っているのだが、それはさておき。

薬剤の効き目というのは基本はもとの眼圧に比例する。有効な場合、高い眼圧ほど数値としてはよく下がる。逆に言うと、低い眼圧ではよくわからない。ましてや、あのゴールドマン眼圧計のおおざっぱな目盛りで神経質に1上がったの下がったのいうのは無意味。
つまり低眼圧領域では変化はほとんどわからない。高眼圧領域での効果から類推するしかない。
加えて、プロスタグランディン系薬剤は、眼圧も、その脈圧(心臓でいうと鼓動、拡張期と収縮期の差)も全眼圧域で下げるのだが、βブロッカは、低眼圧領域では脈圧をむしろ上昇させるのである。眼圧でいうと、低眼圧領域でβブロッカをつかうのは好ましくない可能性がある(ためにする理屈になってるのは自覚している)。

キサラタン(ラタノプロスト)がよく効くので、皆驚いたわけです。いまや後発がでたので値段も安い。通常の開放隅角緑内障の第一選択は文句なしにこれだろう。いっぽうで、高眼圧の場合、βブロッカのほうが効く症例も確実に存在する。
βブロッカでは私はミケランLAが好きですが、朝に上がる眼圧ならチモロール朝1回でもいいかもね、安いしw。エビデンスがないのでこれは余談。
ラタノプロストより有意に眼圧降下が強いのは、データとしてはトラバタンズとルミガン。ルミガンは、トラバタンズとβブロッカの合剤であるデュオトラバにもそんなに引け目ない眼圧降下を示すようだ。だだプロスタグランディン系は充血などもつよいので、そっちも考えて選ぶことに実際にはなろう。
炭酸脱水素酵素阻害剤系も、ま、きかなくもない。2種あるが使用回数、使用感がちょっと違うようだ。
ピロカルピンはPAC系でもなきゃ使いにくい。
βブロッカ以外アドレナリン受容体系は、あまり一般的ではなくデータも少ない。経験値が低くて申し訳ないが、あれこれ手を出しても屁理屈の泥沼になるだけなので、私自身は触りません。手術するふんぎりがいつまでたっても得られない。逆に言うと、手術しない医師はここでいろいろ凝ればいいと思う。

というわけで、なるべく少ない点眼数でいこうという選び方の、私の方針です。
ノンレスポンダーもいるし、かぶれて使えない人もいるから、実際には試行錯誤するしかないですが。

正常眼圧緑内障は、眼圧に関する効果はわかりにくいので視野や OCT で進行を判断するしかない。初期はラタノプロスト、それで進行するならルミガン。充血がたまらないならせめてトラバタンズ。いまでは私は手術は、これに対してはしません。
狭義POAGや高眼圧PEG の場合、眼圧降下作用で選ぶ。
まずはラタノプロストかβブロッカ。そこから、併用してザラカムにしてもいいしトラバタンズにしてもいいが、明瞭なつぎのステップは、デュオトラバかルミガン。
駄目なら、点眼数を増やすしかなく、デュオトラバ+エイゾプトかトルソプト、もしくは、ルミガン+コソプト。
これ以上点眼増やすくらいなら手術しようよと思う。私はどんなに進行しててもきれいな開放隅角の高眼圧はトラベクロトミーではじめます。再上昇が早期なら、その次にはトレベクレクトミー。再上昇まで数年あるようなら次もトラベクロトミー。トラベクロトミーは同一創でも2回はできる。

NVの枯れたもとNVGの高眼圧も同様の点眼にします。消炎されたブドウ膜炎後の高眼圧は、なるべくプロスタグランディンを使わない。これらは、手術するならはじめからMMC併用トラベクレクトミー。

ちなみに負荷試験陽性の PAC で、水晶体再建手術もレーザーもいやという向きには、眠前のピロカルピン1回というところですか。下向いて寝ないこと。

いまの時点での、私の勝手な偏見での決め付けです。突っ込み禁止。私自身いくらでも方針をころっとかえる用意はあります(笑

繰り返すがその通りにやって思い通りに行かない症例もいくらでもあるわけで、しかも経過が長い。
緑内障治療は、あれこれ屁理屈を考えて無駄に悩む医者に向いている。

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