風たちぬ 感想2013/07/28 23:38

技術ひとすじの主人公は宮崎監督自身でしょう。
この人は飛行機が作れればそれでいいので、国のためなんて実際のところ考えちゃいないが、国を利用できるならためらわない。そのへん、お花畑左翼といわれたり、この映画作ったせいで変な国に軍国主義者よばわりされたりする監督自身そのもの。
つまりこの映画は、宮崎監督自身の言い訳として壮大に展開します。

で、ヒロインですがこれがまた極端な人です。死を目前に、美しく思い出されることのみを願って行動し、姿を消す。これって、「みごと散りましょ」という、日本型思考そのものなんですな。「ありよう」を追求するタイプ。

余談ですがいまだに日本人には「見せ場があればそのまま死んでもかまわない」という思考があると思う。まったくの余談。

「やりたいことをしたい」パターンの人間と「やりたいようにしたい」パターンの人間を交差させるために懸命にいろいろ伏線をはるのだが、はっきりいって不自然。あちこちちぐはぐ。
そもそも、結局お互いの人生に影響与えたとは思えない。2人とも、相手がいなくても、それなりに好きなようにして生きたり死んだりしただろう。

物語では、奇跡は一度に限るものだ。葛藤のない主人公の存在が奇跡なのに、そこに一途なヒロインが出現する奇跡は都合よすぎる。
しかし、最後にその居心地の悪さは解決する。夢でヒロインが「あなたは生きて」という場面である。
彼女は、主人公を許すためそのためだけに、この物語にでてきたのである。この物語は、「この主人公が許されて生きていく」というメタレベルの奇跡として完結する。つまり、宮崎監督自身が、自分は許された存在だと開き直ってしまったのでしょう。
日本型美学の化身に至るヒロインの存在感のインフレは、許しを与えるものがしょぼくては困る、ということにほかならない。そして、主人公と同質のものでも困るのである。

目的意識をちょっとシフトしてしまえば、「自分のやるべきことをひたすらやっていたら、国が滅びていました」というのは、実はほとんどの国民の実感だったのではないですか。その中で、「やりたいこと」をやっていた彼には、うろめたくなるだけの理由がある。
「10年」を終え、国が滅ぶや、さっさと許される夢をみてしまうのはいかにも早いが、ここが監督の腕でしょう。凡百の監督なら、戦後延々と生きつづけた死に際の夢に彼女を連れてくると思う。

個人生活でも仕事でもとにかく、これ以上ないもの、を見てしまったらあと困る罠、とも思った。ファウストはそこで死ねたからいいんですが、芋粥を食ってしまったあとも生きなければいけないらしいし。いいワインがあるんだ、というのはもっともな科白です。飲まなきゃやってられないわなそりゃ。

いろいろ宮崎監督に都合よすぎるのだが、映画なんだからまあええやんというのが感想。監督の好きな飛行機は描きたい放題。きれいな絵もてんこもりだし、見るに価すると思う。
ちょっとぬけぬけと、なにやってくれるねんとも思うけど。それを押し通すようにユーミンの「ひこうきぐも」が鳴る。
ほんまなんでも利用するねんなあ。
「紅の豚」にあった「照れ」はもう、微塵もない。

細かいところでは、、、、
火災であがる煙雲が固すぎる。庵野さんにやらせたらもっときれいに吹き上がったろうと思う。ま、きれいすぎてはこまるのでしょう。
口でやるプロペラエンジン音は、面白いのは確かですがやりすぎ。
結核患者とそんなにキスするなよとも思った。宮崎アニメで直接にキスの描写はそうないからこれもわざと、なんだろう。煙草も、よっぽどいちいちいわれて頭にきてるんだろうな監督。聖人君子じゃないと文句言うのはやめてくれといいたそうだ。

医師になった主人公妹が、「となりのトトロ」でのさつきそっくりに泣くシーンがある。ジブリ泣きというそうです(笑 もともと「トトロ」では娘は一人だったのが、物語を作る上での都合から「さつき」と「メイ」になったのは知られる。さつきはわかりやすく進行させるための狂言回しである。彼女は、病気のお母さんが帰ってこないのではないかと泣く。
こちらの物語では、お母さんは結局帰ってこなかったのです。もちろんメイも生まれない。

公開後ちょっとたつのですが、まだ、あまりあれこれいう人いませんしね。
実在人物をモデルにして戦闘機だの結核だのと、描写される内容そのものにぶつかって、どういっていいかわからず、困っている人は多いと思う。もっと困ればいいw