手術結果に不満を言われてもねえ2010/03/24 19:34

ずっと以前こういうことがあった。

半年以上前に、黄斑前膜の手術した患者が来た。60歳以上。

この病気、硝子体が加齢で収縮し網膜から離れる際に後部硝子体膜が網膜上にのこりそれが収縮して網膜が変形し変視症をきたすものと思うのだが。
視力が低下すれば手術してその膜をとるしかないが、いったん変形した網膜はなかなか戻らない。手術自体のリスクもあるから、そこそこ視力がおちている(具体的には免許の視力を基準にしている)場合に、ほっといてももっと悪くなるだろうし手術してもどこまで戻るかはわからないが運がよければある程度よくなると説明して、硝子体切除して膜をはがす。

で、この人、初診時すでに視力 (0.4) で、しばらく様子を見ても当然ながらよくならないし、仕方ないですねということで手術をしたわけだ。ふつうは白内障手術もしてしまうのだが嫌だというので、小切開硝子体手術で、水晶体は温存し、けっこう神経使いながら黄斑前膜をはがした。
術後、膜はきれいになくなったが、網膜はOCTでみて術前より薄くなったものの中心窩が戻るところまでは行かず、変視症あり視力もあまり改善せず。

で、文句をいうわけである。ゆがみがかわらない、元に戻らないのは何でか。戻るといわれたと。
そんなこといいません。ある程度戻ることもあるがケースバイケースといったはずだが、都合のいいことしかこういう人は聞かない。
なにか手はないのか、白内障手術したらよくなったりしないか、などという。当然ながら核白内障も出てきているのである。でも、変視症にきくとは思えんねえ。
人間のできていない私がむっときたのは、よくならないのが気に入らないなんでやねんという「いちゃもん」モードできたことである。
網膜は形状j記憶シャツじゃないですから変形したら元に戻る機能なんてない、膜をはがしてもどこまでよくなるかはその眼次第である、そこそこ視力が悪くなっていたら手術は仕方ないが、はじめが悪ければ戻りにくい。手術に問題はないし、この手のものは治療法もすでに共有されてるから、特にどこかの医療機関にいい治療法があるなんてありません。どっかで診てもらうならどうぞいってくださいでもどこにいっても言うことは一緒でしょ。白内障手術して視力自体はよくなるかもしれないが変視症が余計気になるかもしれないそんなこと事前にはわかりません。
あほらしいが説明はした。前半部分は術前にも説明している。
不満はわかるがいう相手が完全に間違っている。
今後よくなるかと訊くので、そんなことわかりませんでも半年もするとたいがいおちつくからもうあまり変わらないかもしれませんねえと答えた。半端な期待をもたせても仕方ない。

いまの日本の病院のシステムでは、手術して保険から支払われる金はあくまでも手技料、つまり手間賃であって、成功報酬ではない。にもかかわらずなにかあったら損害賠償を求めるという基地外みたいな状況になってるわけだが、われわれ雇われ医師にしても、手術をいくらしたところで報酬が増えるわけではない。
そんな状況で、なんでこういう、治って当たり前よくならないのはお前が悪いなんて人に、神経を使い苦労して手術せんといかんのか。手術なんて、明らかに放置するわけに行かない場合にやることで、悪くならなくて御の字と思うべきもんです。人間の体は部品交換できないし、いじくればたいがいのものは劣化する。

申し訳ないが、今後白内障が進んでも(そして眼内手術しているからたぶん早く進むしその説明もしているわけだが)、私はもう手出しいたしません。手術して、ゆがみが余計気になると言われたらいやです。

生死にかかわる局面でこういうことがあって、医者たちは折れていくんだろう。目医者は気楽だ。死なないし、あとで確認もそこそこ簡単だからね。

ちなみにこの患者は大学に紹介しろと言い出して、これさいわいと病診予約とってそれっきり。大学のほうからは、手術はきれいにできている医療上何も問題は無いしできることもないと手紙が来た。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://inakameishi.asablo.jp/blog/2010/03/24/4968683/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。