HPVワクチンへの日本的反応2017/01/30 11:18

子宮頸癌予防のためのHPVワクチンが中断状態で、産婦人科学会が声明まで出した。

「平成29年1月13日 HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種勧奨の早期再開を求める声明 公益社団法人 日本産科婦人科学会 理事長 藤井 知行
子宮頸がんの一次予防を目指して平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種化されたHPVワクチンが、同年6月にその接種勧奨が中止され、すでに3年半以上が経過しました。日本産科婦人科学会(以下本会)は、平成27年8月に、“HPVワクチン接種の勧奨再開を求める声明”1)をすでに発表しておりますが、今回、平成28年12月に開催された厚生労働省の第23回副反応検討部会2)における報告を含め、以下の理由に基づき改めてHPVワクチンの接種勧奨の一刻も早い再開を強く求めます。」

「以下」については読んでいただくとして。

子宮頸癌は、近年発症年齢も低下してきているそうで、子育て世代の女性を直撃しつつあり mother killer と呼ばれる。幼い子を残して母が亡くなっていく状況は、悲惨だと思う。

原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)だが、常在レベルで誰にでもあり、セックスをしたことがある人の9割が一度は感染するという。感染は男女問わない
しかもコンドームなんかでは防げず、もっていない人を選んで性的交渉するようなことも現実的ではないくらいのものなので、性的接触で感染するにもかかわらず STD 扱いはされていない。
ただ、感染しても、ほとんどの場合そのまま排菌してしまうという。
ですが、10%の持続感染者女性の中に癌が発生するわけです。持続感染が誰にどうおこるのかもわかっていない。
つまり、あまりにもありふれたウイルスなので、接触予防は無理、ワクチンで防ぐしかない、ということになっている。

検診で防げるかというと、手間かけてしかもぜったいにとりこぼしが細胞診にはおこる。
一部の患者を前癌状態で発見しても、円錐切除で治療して、こんどは流早産が増えるらしい。そもそもすでに発症してるんだから「予防」にはならない。

それでも検診でやっていきたい個人はいるだろうし、麻疹なんかと違って個人の安全にとどまるんで、自身がどうするかについては信念で好きにすればええとは思うけど、集団としてはワクチン接種ということでいいと思います、検診もなんも考えてない人間のほうが圧倒的に多いので。

このワクチンですが、主に「副反応」が問題になって、メディアやいわゆる「市民」があまりにヒステリックに叩き、一般にも不安が広まって、とうとう中断されてしまったのは周知のとおり。
で、上記の声明になったわけですね。

以下、「被害者の会」のサイト。まるっきり公共事業による公害扱いですな。

全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会

これに対する批判も出版されている。 Kindle版しかないのかな。
「薬害でっちあげ あまりに非科学的な子宮頸がんワクチン阻止運動―新潮45eBooklet」
村中璃子 (著)

ワクチンのエビデンスガーという向きはある。
たしかに、行政的に予算のつく予防医療のエビデンスは難しいのだが、世界的に行われているこのワクチンでは、WHOに、他の先進諸国では綺麗に減ってきているのに日本だけ変わらないというデータがあるそうで、これこそがエビデンスなんでしょう。
社会制度や習慣もかかわる医学データは集計も解釈も難しいしケチはなんぼでもつけたい向きからはつくやろけどねえ。

こういうものは社会全体で考えるしかないのですが、悪い影響の出た人が少数いた(それも本当にこれのせいかわからんけど)といってぐいぐい足引っ張るもんが湧いてくるのがどこの分野でも困りもの。100%安全なものはないし。

足引っ張るところは、メディアの自主規制とか、役所の法律未満の通達とか、いわゆる「ネット炎上」も含めて、日本人の各種問題に対する基本姿勢にかかわる現象で、たぶんどうしようもないんでしょうかねえ。声のでかい少数者に対する過剰配慮というのか。

いやまあ一部の感情的な反応にのせられてシステムまでいじくられるのは、まずいと思います、それでぶっつぶれかけてる国も斜め上にないか?

診療の現場でも「なんかあったらどうするんですか」「だいじょうぶですか」とよく訊かれますが、「たいがい大丈夫ですけど、あかんこともあるし、神様がきめることです」と返事したりします、超越した絶対者がいないと人間はなんでもコントロールできる気分になっていけません。
アニミズム的多神教のあかんところは自分のコントロールできる神様がいるはずだと探し回るところですかね。

一部の国では、男性に対する接種もはじまっているそうな。
発症するのが女性のみとなると、予防して利益をもつのは女性のみ、その場合、男性を対象に、すこしでも身体侵襲をともなう接種を、疫学的に意味があるほど広範囲に行えるか、日本の場合さらに疑問ではないですかね、女性でもあかんのに。うらやましい話ではある。

重要なのは「あらたな感染者をふやさない」ことです。
人間はいくつになってもセックスしますからすでに感染した率の多いおっさんがいくらでもいるのに男を対象にしても短期的にはどうしようもないので、接種対象として最も効率がいいのは未性交の若年女性集団でしょうねえ。

接種して、癌発症リスクが下がるとセックスへのハードルが低くなるというへんな心配する親御もおられるようですが、ワクチンしてないからエッチしませんなんてことは絶対にメジャーにはおこりませんから、ワクチンの有無が性的交際全体に与える影響なんてないともおもいますし、さっさとするしかないのです。
母としてそんなに娘を癌にしたいのかといいたくなる。

それにしても、女性にしか発症せず、ワクチンのリスクも女性がかぶるので、女は損や、という人もいたな。
いや、よくわかりますw
そもそも、セックスや出産等自体が、それを超越する利益(まあ有形無形含め)を女性にもたらさんと割に合わんのですけど、男と女が基本的には入れ替えられんから(ここでLGBTの話はやめてくださいややこしくなりすぎるので)、比較自体がおこらず、世の中もってるんでしょうかねえ。

なににしても、HPV感染で損するのはまずは女性側なんで、ワクチンは女性が自衛手段を得たと考えるべきなんでしょうが、自衛隊みたいに扱われるのが日本というか。

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