STAP細胞考2014/02/01 14:13

べつに成果に文句つける気はない、そんな畏れ多い。

西洋起源のサイエンスはもともと神の設計図を追い求めるもので、いまなら遺伝子による決定がドグマになっている。いったん決定された運命はくつがえらないのが仮設的な掟であって、体細胞がやりなおす iPS細胞も遺伝子の導入等で引き起こされる以上そのルールのバリエーションで処理されうる。
ところが STAP細胞は、純粋に環境の変化で体細胞が一からやりなおすということになるので、そのインパクトは大きい。生物学を愚弄するなとネイチャーがはじめリジェクトしたのもわかる。

むかしウサギの耳にコールタールを塗り続けて癌を引き起こしたのも日本人科学者であった。今回のアプローチは、そういう日本的な科学の文脈の延長線上にあるものであって、割烹着はその象徴である、、、と、出来の悪いサイエンスライターが書いてくれそうだと期待してるんですが。
いますぐはなんぼなんでもないだろうけど、あと数年も経ったら、割烹着で実験する研究者女子だの高校生女子生物部員だのが主人公のラノベが出るだろう程度のことは予想しておきます。なに、小保方博士にあこがれてるという設定にすれば無問題。

ただいろいろ報道には勘違いがあると思う。

マウスというのはかなり幼若な状態で生まれる。生まれてすぐは、眼瞼もまだ上下が解離していない。網膜の層構造がちゃんとできるのだって生後しばらくたってから。人間の新生児にくらべると、まだ、より胎児の状態に近いといえる。

成熟した細胞が、あらためてマウス全体に再分化しうる、というのだが、生後一週間以内に採取されたリンパ球でしょう。終末的な分化状態ではないんじゃないか。
人間でも、胎児から採取した細胞を使うと、新生児にくらべてもいろいろ分化能がちがったり培養可能範囲が広かったりする。これはまあ、培養をいろいろやった研究者ならよくわかったはなし。

それでも、分化後の体細胞が、遺伝子導入操作なしにリセットされる、ということが明らかになったのは、大変な知見である。

で、マウスではなく人間への応用がどうしても視野に入ってしまうのである。人間の細胞で同じことがしたい、ということです。
もとの研究者は、その話が危ないのはわかってるから、微妙にぼかしてられるが。しきりにマウスの系での発展のことばかり話される。
マウスの系で結果を出して人間に応用、というのはわかるんだが、はじめから人間の系でやれば効率がいいのはあたりまえ。

人間の場合、新生児のリンパ球ですむなら臍帯血という手もあろうが、それでも遅すぎる場合、胎児から採血するしかない。
胎児から研究のためにルーチンで血を抜くのは不可能だが、中絶胎児なら採取可能である。日本では、しかし、社会システム上それができるとは思えないのです。

アメリカでは、実験や研究用に、中絶胎児の臓器を流通させるシステムが、ちゃんとある。そんないかがわしい組織じゃない。まともな研究機関が、研究費を正当につかってそれを買える。かれらは、中絶の是非を争うことはあっても、死体が「もの」でしかないことについては迷いはない。ここは、いまだに汎神論的世界に住んでいる日本人には、感覚としてわからないところ。
話は違うが、アメリカでは、角膜を買うことも可能だ。もちろん本人なり家族なりが死後の使用を了解して売るんだろう。日本の角膜疾患専門施設も、アメリカから買って角膜移植に使ったりしている。お代がちょっとややこしくなるがそれはさておく。

加えてアメリカでは、 ES 細胞ですでにビジネスが行われている。トップが高く裾野の広い、国民保険のない国であるから、それはもう訳のわからない研究所や会社がよくわからないことをいっては金儲けしようとするのである。
日本にいると iPS 細胞すごいという感じしかないが、世界の中では後発商品であることは知っておいた方がいい。日本人の研究者たちが、まじめにちまちまやっているのは非常に好感が持てるのではあるが。

公表されたように簡便にリセットされ再び全身に分化する能力が獲得されるというのでしたら、今後の STAP細胞のいきようによっては、iPS 細胞も、一気にガラパゴスになるかもしれない。 iPS 細胞はいまだに癌ガーとかいう向きもあるしね、実際にはすでにそういうことはなくても、しみついたイメージはこわい。
まあ、細胞分化から先については応用が利くので、分野全体まったく一からのやりなおしにはならんにしても。

もともとけっこうなんでもありな研究のできるアメリカで、しかも材料も金の力でどんどん手に入るのであれば、人間をつかった STAP 細胞研究があちらでいきなり進んでもおかしくないなあ、と思うのです。
そしてそれに伍してすすんでいけるだけの社会基盤を日本は持っていない。

胎児としても、後期中絶胎児じゃないといかんということになると、中国がのしてくるかもしれんという妄想も追加しておきます。
それにしても、中絶胎児を使うんだったら、けっきょくは ES 細胞で壁になった倫理的問題は超えられないのだよね。
人間でも新生児リンパ球のなかに使えるものがあったらいいですね。案外、てきとーな幹細胞のレベルであればもとに戻るかもね。

もっと求められてる研究は、外的刺激で癌細胞をもとに戻す、研究なんでしょうけど、そっちもだれか頑張ってほしい(お気楽)。


以上、まったくの門外漢の、むかしの知識に基づいたでたらめです。本気にはしないでください。

あと、メディアは、女性科学者を珍獣扱いするのはええかげんやめろ。

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