印象 ExPRESS2013/07/17 23:27

久し振りに眼科医にしか分からないことを書きます。

ExPRESS のこと。
トラベクレクトミー(以下レクトミー)で、開窓して PI するのがじつはこんなにストレスだったのかと、気づく。
以下、非常に偏ったことも書いてます。気に入らない向きはするー推奨です。

結膜に濾過胞をつくる濾過手術は、結膜の状態がよくてなんぼである。

正常眼圧型の緑内障で手術するなら初回から濾過手術でいい。ただ、特に低眼圧(low-teen以下)のものをさらに手術で下げるのと点眼でおしきるのとどちらがいいかと考えると、私自身は手術はどうかなとは否定的なのであるが。すりゃいいってモノでもなかろう。
ちなみにその場合の点眼はプロスタグランディンにしている。βブロッカは低眼圧領域でかえって OPA が上昇したりする。アイファガンはわかりません。

高眼圧で原発性開放隅角もしくは PE なら、1度はトラベクロトミー(以下ロトミー)するのがいい。ロトミーしてあっというまに眼圧があがるなら、それは何度やっても駄目だからさっさと濾過手術するがいい。
ロトミーしてかなり時間たってから再上昇したなら、同一創でもういちどロトミーして効く事が多いから、やらない理由はない。しかし、そのあとまた上ったなら、別創でロトミーして結膜に炎症をおこすよりはもう濾過手術するのがいい。

いうまでもないがロトミーは右下からする。筋に牽引糸かけてぐいっと回し、右真横からロトミーする。正面からみて8時くらいのところに弁が作れるはずである。おもったより簡単なのでやってみるべき。てか、これができなくて緑内障サージャンを名乗っちゃいけないw
ま、顕微鏡をふって耳側からやる、という手はあるけどね。

ロトミーと同時に行う白内障手術については、「白内障として必要なら行う」でいい。どうせの機会だから一緒に、なんてことを緑内障をあまりしないどっかの研修指定病院部長がいってたが、「どうせ」で医療を行うのはやめろ。

ロトミーを右横からやるなら、白内障を同一創からするのはなかなか難しいから、ベント方向から角膜切開で foldable を入れる。後日濾過手術するときはそこからなるべく離れた上方でするわけです。

浅前房になるリスクのある濾過手術については、水晶体再建は must である。白内障がなくても同時にやるべき。

ExPRESS についてはMMCレクトミーほど早期の合併症がない。術後の白内障進行も少ないのだろうが、濾過胞がある眼に追加で白内障手術するのはよろしくなさそうにいまのところ思っている。皮質や核がつまるんじゃないかという人もいる。手術中にそんなにとばすもんかなとは思うし手術後でいうと重力で下にいくだろうから大丈夫だろうとも思うのだが、その人は自分の手術で破片が飛びまくるのを見て気になるのだろう。正直な話で、理解は出来る。HealonV でブロックできそうにも思いますがね。
話は違うがシリコンオイルが ExPRESS に入ってるのは隅角鏡で見たことあるw
まあ単にそこにあったのか通過障害になってたのかはわかりませんが、眼圧は下がっていたので、あっただけなんでしょう。

ステロイド緑内障はロトミーが効くというのだが私にはいまいちその印象がない。そもそもロトミーはとくにシュレム管内壁あたりに流出障害があって眼圧上昇するものに効くのであって、房水産生過多症例に効く理屈はないと思うのですが。

初回に近ければ近いほど、濾過手術はきく。だから、ロトミーせずにMMCレクトミーばかりして、MMCレクトミーはよく効くという人は、これはこれで正しい。
あと、ロトミーもレクトミーも、高眼圧型の症例での平均眼圧は middle-teen におちつくことがおおい。レクトミーのほうがちょっとは低いようにいわれるが、術前条件を眼圧などそろえて比較したデータは見た事がない。
なににしても隅角辺りであれこれ小細工するかぎり結果はそうかわらないということか。

そもそも緑内障手術とくに濾過手術には手技の個人バリエーションがあまりに多い。つまり、ほとんどの場合その手法に慣れれば、違いなんてどうでもいいということである。だから技術の張り合いにも意味はない。結膜切開やら縫合やら強膜弁やら事細かに「私はこうする」なんてイタイだけである。
ExPRESS は、「ひとそれぞれの職人技」つまり科学ではない部分の、標準化をある程度可能にした。これは、すでに標準化のおこなわれてきた白内障や硝子体手術になれた人に、考え方として相性がいい。
いままで緑内障手術しなかった人たちがこれで始める、というのもよくわかる。

レクトミーとちがった部分での工夫について。

便宜上の問題になるが、弁は幅広につくり、 ExPRESS の入れなおしがちがうところからできるようにする。だからスクエアでいいとおもう。三角では入れなおしにくい。
長さは、短めでいいとおもう。レクトミーはふつう fenster の横の輪部から水がもれていくが、 ExPRESS は、効きもしない Lakeやらトンネルやらを考えなくても後ろから漏れる。 deep sclerectomy なんていらない。そんなもんつくって ExPRESS 刺入部が薄くなって裂けたらどうしようもないではないか。同じ理由で、弁はなるべく薄くつくる。

MMC は広範囲にきくほうが当然いいのだから、私は MQA につけて、テノン嚢下なるべく奥までにぐいぐい押し込んで効かせている。MQA の数を数えるのは必須。糸つきMQAがあって、使うと便利である。

弁をつくったら、前房を粘弾性物質でみたして、23Gの内視鏡をつかってイルミネーションで内側から照らしてみると面白い。
症例によっては、シュレム管内の赤血球が顕微鏡下に見えたりする。
そうでなくても、虹彩峡の部分がそれなりにわかる。そこで、シュレム管あたりにピオクタニンでマークした上で、25G針で突く。内視鏡の出番はここで、それなりの場所に通った事が確認できれば、そこへ ExPRESS をいれたらいい。
怖がって寝かして刺入して角膜に埋まりこむのは避けて、ふつうに突く。隅角鏡での先が虹彩に触っていても大丈夫です。

弁は、10-0ナイロンできっちり5-6箇所縫う。横方向の糸は、 ExPRESS の穴の高さでやればいい。そこより角膜側に漏れることはない。
ここのステップはなるべく漏れないようしっかり縫えばいいだけで、濾過量の調整とかしながら縫うのは自己満足。調整はあとでやるものだ。

結膜だが私はほぼ輪部切開のみで行う。輪部に垂直方向の切開はなるべく入れない。閉じるときは10-0自己吸収モノフィラメントで、弁の切開部分にまず2糸いれ、あとは端から端まで連続で縫う。しかしまあここはその人のやりやすいようにやればいいんじゃないですかね。

おわったとき前房にはちょろっと低分子の粘弾性物質を入れておくようにしている。

濾過手術は、術後数日でまず糸が緩んで濾過が増える。1週間目くらいに癒着してきて濾過胞が低くなり眼圧が上るあたりが勝負どころ。奥の側の糸を切り、マッサージして、安定に持っていく。
だから、手術直後はそんなにすることはないし、前房がちゃんとあればすぐに退院でいいと思う。管理したいのはむしろ1週間目前後なのです。

私は、濾過胞ができていても、日に1度程度マッサージさせます。

以上、うまくいくときの ExPRESS の印象とパターン。
いままでのレクトミーよりなんとなく気分も楽だ。

聞いた話だが、術後しばらくしてえらく充血がきつくなってけっきょく濾過胞のつぶれた症例があり、金属アレルギーだったんじゃないかということがあったそうな。
MRIも3テスラまでらしいし、あまり若い人の初回に使いたいとは思わないが、今後ひとつのスタンダードにはなるのだろうと思っている。

濾過量がこの器具でいいのかという議論はあるだろう。アメリカではもっと太い ExPRESS も出たらしいのですが浅前房などトラブルがあって、日本に入ってこなかったそうな。
しかしまあ、1本じゃどうも足りないなら2本使ってみるという向きも出るかもしれませんな、問題は誰が2本目の金を払うかということでしょうけどね。

脱線。前から思っていたのですが、 PI ってけっこうよくないものなのではないですかね。瞳孔から房水が前房にゆきわたるのがよいので、PI通ってそのままそとへ出ていくレクトミーに、たとえば白内障進行が多かったのも、新鮮房水がゆきわたらないストレスだったんじゃないか。角膜にもよろしくなさそうに思う。その点からも、 PI のいらない ExPRESS のほうがいいように思っています。

数少ない経験、乏しい知見と、たくさんの推測を並べた、科学的とはいえない ExPRESS 観なのは自覚していますのであしからず。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://inakameishi.asablo.jp/blog/2013/07/17/6905916/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。