救急室受付事務の善意と医療崩壊 ― 2010/10/06 22:09
先日同年代眼科部長の話。激怒していましたが。
彼の病院は県北にあり、県庁は県南にある。
県庁近辺には、でかい日赤だの、県立医大とかがある。
彼の病院では数人いる眼科医が外科系当直に入る。
県は、以前に県の眼科医会に一次救急を年150万ほどで委託していたが金が無いのでもう出さないといい、医会は、それじゃ協力も出来ない、と手を引いた。150万だって日割りにすれば無いに等しいが、それを眼科医会の運営資金に組み込むことで医会員の協力を得ていたのです。それもないのに医会としては協力する気にはそれはなりませんわね。実際日に数人のコンビニ受診のために無料で診療所をあけて休日をまるまる拘束されてはどうしようもない、事務ナースも出てきてもらわんとあかんし。
で、県は、県内のめぼしい病院の当直に眼科医が入る日程を各病院に届けさせて、その一覧表をつくり、つまりは地域救急にのっかって県の眼科救急の調整をしてるようなふりをしはじめたわけです。
県内は3つの医療圏にわかれている。西南部4院、東南部3院、北部4院が記載。一覧表では、医療圏ごとに軽く分けられているだけで、全県が人目で見られるようになっている。
この一覧表がまともじゃない。眼科医が外科当直とか全科当直してるはずの病院はほかにもあるのに入ってない、逆に、眼科常勤のいない病院も一覧に入って、当直ゼロという無意味な記載。なによりも、眼科が毎日当直してるはずの県立医大はゼロ回答になっていて、おまけに眼科施設からの紹介が必要としたに小さく注記があるのみ。
彼の病院は北部で、県立医大はもっとも離れた東南部にある。高速で1時間下道で2時間。
彼が外科系当直していたら、夜の23時に電話がかかってきた。医大のあるあたりからなのだが、スポーツの練習で眼になんかしたそうで、車でそちらに向いますと言ったそうな。医大のあたりからってどういうこと、と思うことしきり。そのあたりからだったら隣県の県庁所在地だって高速で20分、1時間以上かかる北部の彼の病院より、はるかに近い。
遠いから時間がかかるのは仕方ないが、0時10分過ぎてもこないので当直室へ。うとうとしていたらきましたとコール。 1時になっていた。
20歳大学生。眼球は大丈夫だが上眼瞼が縦にすっぱり切れていて、むしろ形成外科の領域。外科系当直ではあるのでとりあえず縫っておく。やりっぱなしというわけにいかんから、電車で1時間以上かかるけど明日またきてください、形が悪くなって睫毛がさわるようになったりするかもしれないし、明日形成外科にみてもらってやりなおしになるかもしれない、と説明した。
で、患者付き添いがいうには、怪我した場所のすぐ近所の医大に問い合わせたら、眼科はこっちといわれたのできましたと。
確認に電話してみたそうな。
医大の救急室K氏、県からの資料で眼科医のいるのはそちらとあるのでそう教えましたとくだくだ。むっときた彼は、自前の眼科当直があるのに遠いところから一方的にしかも眼科疾患でもないものを送りつけるのですか今後そちら経由の患者は断りますこれは問題にしますのでと通告。
翌朝、彼は、総務の担当事務員のところにいって以下の文書をわたし、こういうことがあったので今後調整表に関し当院について情報を与えないよう指示したそうな。
----------------------------------------------
当直での件 眼科部長
経過
23時
(医大所在地)あたりから、スポーツ練習で目に怪我をしたので当院に来ると電話連絡あり。
1時
来院。20歳。上眼瞼内側の切創、形成外科相当。眼科部長が外科当直として縫合処置。
医大に問い合わせたらそちらにいけといわれたと付き添いがいう。
医大に状況の確認。救急室の受付(K)氏、県から配布の資料に、本日の県内で眼科医が当直しているのは当院とあるので、そのように伝えたと。患者の状態の確認なし。
問題点
1)県内とはいえ医療圏の遠くことなる地域の救急患者(せめて隣県県庁のほうが近い)を、自前で眼科当直待機があるはずの医療施設が、一方的に診察も紹介もなしに事務員の口頭の指示で送りつけるとはどういうことか。
2)しかも、眼科ではなく形成外科相当であり、一応縫合はしたが今後形成外科で再処置もありうる。
当院眼科部長としては、医大救急室の対応が改善されるまでは、医療圏外(とくに県東南部)の眼科急患は、当院当直が眼科医であってもお断りして直接の医大受診をすすめるよう考えています。
また、そのように使われる以上県に情報を出さないでいただきたい。当直待機調整表では、当直制のはずの医大について記載が一切なく、届けをしていないのが明らかです。三次であるとしても存在するなら記載すべきです。
こんな片手落ちのものにつきあう理由はありません。
よろしくお願いします。
県内眼科の待機調整表について。
今後当院については、標記しないでください。「待機」(△)として表記するのもやめてください。
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医大の救急室事務は、なるべく取り次ぐな、飛び込みはうけるなといわれているのだろう。そのうえで、電話のむこうで眼がどうのというので、県内で眼科医が救急外来にいるのはここだと県の資料を見て、親切で教えてやったんだろう。そこがどんだけ遠くても県内で教えるのが役人なのだろう。
もっといけないのは、地域救急医療にのっかって県規模で眼科救急医療をしてるような顔をしたがる県ですな。彼の病院はちんけな市立で、医療圏の急患はともかく、2時間もかかるところの急患を県にあれこれいわれる筋合いは無い。県単位だったら県立医大か、開設者が知事の赤十字にやらせろよ。
眼瞼を切ったかわいそうな青年は、翌日1時間以上かけて列車で彼の病院にやってきて、縫合の追加をうけたらしい。
旅先で怪我して救急にいったがその後は地元でというのはよくきくが、夜中にそんなところまでいって、あとの処置は近所でというのは、どうにも筋が通らないし、やりっぱなしになるのは嫌なので、とにかく来てくださいと言ってるそうな。ちょっと融通がきかないかな。
抜糸のためにもまた来ないといけないし、大変。
今回、システムがどうであればちゃんと動いたか考えようか。
電話で事務が話をきいたところで何がどうなのかわかるわけがないので、外傷としては、医療圏内の外科系当直のいる病院に誘導されるべきだった。
そこの当直が、自分では手に負えないという場合の後送病院が確保されなければならない。
三次救急としても、県立医大眼科は、眼科施設のみならず、非眼科当直医が眼科疾患要救急と判断した症例は受けるべきである。でないと、眼科医が当直にいないときに眼科三次救急へのアクセスがなくなってしまう。そうでないなら、深夜の飛び込みを自前でうけなきゃ。
もちろん、調整表は、きっちり完備する。
これだけのことが必要なのである。
ところで現在、県立医大が三次として役にたっているかというとぜんぜんそんなことないのだそうだ。田舎大学の常でマンパワーがなく、新入局者は毎年多くて数人、やめて開業するもんのほうが多いし、夜中にまともに対応できるとは思えない。だから、実質呼び出されないような体制を組んでいるわけですね。
その近所の赤十字病院のほうがはるかにいろいろできるのですが、ここは二次扱い。月のうち10日以上、眼科医が外科当直に出ているここのほうがはるかに役に立つ。でも、ここは真面目だから、三次になっていつ呼び出されるかわからないよりは当直時の眼科医を充当する二次で十分ということらしい。県立医大もこの赤十字も西南ですが、ほかの医療圏について言っても、東南にも北部にも硝子体手術までこなせる病院がありどっちも二次相当。つまり医大の出る幕は実は無い。
話を戻して県北部の知人。役人が思いついた小手先の工夫で回していたんじゃどうしようもないし、悪いシステムを延命させるだけだから、うちからはもう情報は提供しないという。現場の医師が善意と努力でやっているものに、役人が当たり前のように乗っかって過負荷をかけてくるのは不愉快に違いない。
彼の話をきいた、救急外来のトップである救急センター長も、地域医療に県全体の問題を勝手におっかぶされてはこまるからもう情報を出さないのでよいと言ったそうな。地域医療のほうはそのぶんちゃんとやれというのは忘れなかったそうで、藪つついたかなと彼は苦笑い。
ともあれ、ひとのふんどしでいい顔をしてはいけない。
こうやって、マニュアル役人は、結局県内の眼科救急の情報が出ない方向に進めただけだった。地域医療を守るためとはいえこれも医療崩壊の一部ですか。
彼の病院は県北にあり、県庁は県南にある。
県庁近辺には、でかい日赤だの、県立医大とかがある。
彼の病院では数人いる眼科医が外科系当直に入る。
県は、以前に県の眼科医会に一次救急を年150万ほどで委託していたが金が無いのでもう出さないといい、医会は、それじゃ協力も出来ない、と手を引いた。150万だって日割りにすれば無いに等しいが、それを眼科医会の運営資金に組み込むことで医会員の協力を得ていたのです。それもないのに医会としては協力する気にはそれはなりませんわね。実際日に数人のコンビニ受診のために無料で診療所をあけて休日をまるまる拘束されてはどうしようもない、事務ナースも出てきてもらわんとあかんし。
で、県は、県内のめぼしい病院の当直に眼科医が入る日程を各病院に届けさせて、その一覧表をつくり、つまりは地域救急にのっかって県の眼科救急の調整をしてるようなふりをしはじめたわけです。
県内は3つの医療圏にわかれている。西南部4院、東南部3院、北部4院が記載。一覧表では、医療圏ごとに軽く分けられているだけで、全県が人目で見られるようになっている。
この一覧表がまともじゃない。眼科医が外科当直とか全科当直してるはずの病院はほかにもあるのに入ってない、逆に、眼科常勤のいない病院も一覧に入って、当直ゼロという無意味な記載。なによりも、眼科が毎日当直してるはずの県立医大はゼロ回答になっていて、おまけに眼科施設からの紹介が必要としたに小さく注記があるのみ。
彼の病院は北部で、県立医大はもっとも離れた東南部にある。高速で1時間下道で2時間。
彼が外科系当直していたら、夜の23時に電話がかかってきた。医大のあるあたりからなのだが、スポーツの練習で眼になんかしたそうで、車でそちらに向いますと言ったそうな。医大のあたりからってどういうこと、と思うことしきり。そのあたりからだったら隣県の県庁所在地だって高速で20分、1時間以上かかる北部の彼の病院より、はるかに近い。
遠いから時間がかかるのは仕方ないが、0時10分過ぎてもこないので当直室へ。うとうとしていたらきましたとコール。 1時になっていた。
20歳大学生。眼球は大丈夫だが上眼瞼が縦にすっぱり切れていて、むしろ形成外科の領域。外科系当直ではあるのでとりあえず縫っておく。やりっぱなしというわけにいかんから、電車で1時間以上かかるけど明日またきてください、形が悪くなって睫毛がさわるようになったりするかもしれないし、明日形成外科にみてもらってやりなおしになるかもしれない、と説明した。
で、患者付き添いがいうには、怪我した場所のすぐ近所の医大に問い合わせたら、眼科はこっちといわれたのできましたと。
確認に電話してみたそうな。
医大の救急室K氏、県からの資料で眼科医のいるのはそちらとあるのでそう教えましたとくだくだ。むっときた彼は、自前の眼科当直があるのに遠いところから一方的にしかも眼科疾患でもないものを送りつけるのですか今後そちら経由の患者は断りますこれは問題にしますのでと通告。
翌朝、彼は、総務の担当事務員のところにいって以下の文書をわたし、こういうことがあったので今後調整表に関し当院について情報を与えないよう指示したそうな。
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当直での件 眼科部長
経過
23時
(医大所在地)あたりから、スポーツ練習で目に怪我をしたので当院に来ると電話連絡あり。
1時
来院。20歳。上眼瞼内側の切創、形成外科相当。眼科部長が外科当直として縫合処置。
医大に問い合わせたらそちらにいけといわれたと付き添いがいう。
医大に状況の確認。救急室の受付(K)氏、県から配布の資料に、本日の県内で眼科医が当直しているのは当院とあるので、そのように伝えたと。患者の状態の確認なし。
問題点
1)県内とはいえ医療圏の遠くことなる地域の救急患者(せめて隣県県庁のほうが近い)を、自前で眼科当直待機があるはずの医療施設が、一方的に診察も紹介もなしに事務員の口頭の指示で送りつけるとはどういうことか。
2)しかも、眼科ではなく形成外科相当であり、一応縫合はしたが今後形成外科で再処置もありうる。
当院眼科部長としては、医大救急室の対応が改善されるまでは、医療圏外(とくに県東南部)の眼科急患は、当院当直が眼科医であってもお断りして直接の医大受診をすすめるよう考えています。
また、そのように使われる以上県に情報を出さないでいただきたい。当直待機調整表では、当直制のはずの医大について記載が一切なく、届けをしていないのが明らかです。三次であるとしても存在するなら記載すべきです。
こんな片手落ちのものにつきあう理由はありません。
よろしくお願いします。
県内眼科の待機調整表について。
今後当院については、標記しないでください。「待機」(△)として表記するのもやめてください。
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医大の救急室事務は、なるべく取り次ぐな、飛び込みはうけるなといわれているのだろう。そのうえで、電話のむこうで眼がどうのというので、県内で眼科医が救急外来にいるのはここだと県の資料を見て、親切で教えてやったんだろう。そこがどんだけ遠くても県内で教えるのが役人なのだろう。
もっといけないのは、地域救急医療にのっかって県規模で眼科救急医療をしてるような顔をしたがる県ですな。彼の病院はちんけな市立で、医療圏の急患はともかく、2時間もかかるところの急患を県にあれこれいわれる筋合いは無い。県単位だったら県立医大か、開設者が知事の赤十字にやらせろよ。
眼瞼を切ったかわいそうな青年は、翌日1時間以上かけて列車で彼の病院にやってきて、縫合の追加をうけたらしい。
旅先で怪我して救急にいったがその後は地元でというのはよくきくが、夜中にそんなところまでいって、あとの処置は近所でというのは、どうにも筋が通らないし、やりっぱなしになるのは嫌なので、とにかく来てくださいと言ってるそうな。ちょっと融通がきかないかな。
抜糸のためにもまた来ないといけないし、大変。
今回、システムがどうであればちゃんと動いたか考えようか。
電話で事務が話をきいたところで何がどうなのかわかるわけがないので、外傷としては、医療圏内の外科系当直のいる病院に誘導されるべきだった。
そこの当直が、自分では手に負えないという場合の後送病院が確保されなければならない。
三次救急としても、県立医大眼科は、眼科施設のみならず、非眼科当直医が眼科疾患要救急と判断した症例は受けるべきである。でないと、眼科医が当直にいないときに眼科三次救急へのアクセスがなくなってしまう。そうでないなら、深夜の飛び込みを自前でうけなきゃ。
もちろん、調整表は、きっちり完備する。
これだけのことが必要なのである。
ところで現在、県立医大が三次として役にたっているかというとぜんぜんそんなことないのだそうだ。田舎大学の常でマンパワーがなく、新入局者は毎年多くて数人、やめて開業するもんのほうが多いし、夜中にまともに対応できるとは思えない。だから、実質呼び出されないような体制を組んでいるわけですね。
その近所の赤十字病院のほうがはるかにいろいろできるのですが、ここは二次扱い。月のうち10日以上、眼科医が外科当直に出ているここのほうがはるかに役に立つ。でも、ここは真面目だから、三次になっていつ呼び出されるかわからないよりは当直時の眼科医を充当する二次で十分ということらしい。県立医大もこの赤十字も西南ですが、ほかの医療圏について言っても、東南にも北部にも硝子体手術までこなせる病院がありどっちも二次相当。つまり医大の出る幕は実は無い。
話を戻して県北部の知人。役人が思いついた小手先の工夫で回していたんじゃどうしようもないし、悪いシステムを延命させるだけだから、うちからはもう情報は提供しないという。現場の医師が善意と努力でやっているものに、役人が当たり前のように乗っかって過負荷をかけてくるのは不愉快に違いない。
彼の話をきいた、救急外来のトップである救急センター長も、地域医療に県全体の問題を勝手におっかぶされてはこまるからもう情報を出さないのでよいと言ったそうな。地域医療のほうはそのぶんちゃんとやれというのは忘れなかったそうで、藪つついたかなと彼は苦笑い。
ともあれ、ひとのふんどしでいい顔をしてはいけない。
こうやって、マニュアル役人は、結局県内の眼科救急の情報が出ない方向に進めただけだった。地域医療を守るためとはいえこれも医療崩壊の一部ですか。
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